まだまだ路上2年生の頃。。。
広島で始まった僕の路上演奏だったけれど、一箇所に長く滞在すれば誰もがそうある様に、いつしか馴れ合いとしがらみに嫌気が差していた。
いつも5~6人が集まっての一種暴走状態だった広島・流川の路上演奏には、いい大人の酔っ払い以外にも、若い女の子がやって来たりしてた。
Kちゃんも、その中のひとり。
地元広島のKちゃんは、だけど通っていた高校をわざわざ大阪の高校へ移し、一人暮らしをしているという。
半ば冗談のように
「俺、大阪に行こうかな」
とボヤいた僕に、Kちゃんは
「だったらウチに来ればいいよ」
と、十代の少女特有のあっけらかんとした口ぶりで言った。
でもそれは実のところ、僕も期待していた言葉だった。
当時27歳の僕と、17~18歳の彼女。
身内には『犯罪』と呼ばれた同居生活が、夏の終わりの大阪で、市内から北へ離れたベッドタウン、茨木市で始まった。
茨木市は、僕の生まれた1970年に大阪万博の開かれた都市だ。
万博のシンボル『太陽の塔』のモニュメントで有名な、故・岡本太郎氏と誕生日が同じ僕には、何か運命的なものを感じた。
27歳の僕でさえ、まだギリギリその程度の事にも運命を感じられる歳だった訳だ。
ティーンエイジャー真っ盛りのKちゃんにとっては、尚の事だった。
「大阪、ええ街なんよ~」
と、広島弁のまったく抜けない口調でしきりに言ってたのを覚えてる。
でも彼女が住んでたのは、そんな万博記念公園へと続くJR線から東へ1キロ離れた、阪急茨木市の駅に近く、僕の演奏拠点はそこに決まった。
第一次ストリートミュージシャンブームとでも呼ぶべきその時代。
茨木市駅前は、ストリートミュージシャンが常時5~6組は演奏していた。
まだまだ『ゆず』も『19』もデビューなんかしてなくて、どのミュージシャンも演目は大抵『ナガブチ』か『オザキ』か『ブルハ』 (順に、長渕剛、尾崎豊、ザ・ブルーハーツ) だった。
オリジナルを唄う人間は少なく、演奏レベルも歌唱レベルも、まだまだセミプロかそれ以下ばかり。
よって、歌唱力だけには定評のある僕は次第に地元ミュージシャン達にも一目置かれるようになり
『オザキの人』
という、光栄極まりない通り名を頂いた。
ちょっとだけ、いたたまれなかったが。
Kちゃんはといえば束縛時間の少ない高校だったため、週のほとんどをバイトに費やしていた。
とはいえ、そこは十代の女の子。親からの仕送りもあった様だが、それだけでは遊びきれないのだろう。
ただし、Kちゃんの名誉のために書くのだが、彼女は決して当時大流行のコギャルではなく、なんだか素朴さの溢れる元気な少女だった。
遊ぶと言っても友達とプリクラを撮ってまわるだけだったり、カラオケで8時間唄い通したと疲れ果てて朝帰りしたりの、僕から見れば他愛もないものばかりだった。
その頃は夜のバイトだったため、僕の路上演奏にも滅多に顔を出さなかったし、何よりも
『自分が隣にいたら、人が寄れないんじゃないか』
と気にするほど、僕の路上演奏を大切に考えてくれていた。
そんな彼女だったからこそのエピソードがある。
ある日、Kちゃんが僕の事を、嬉しそうに友達に話したらしい。
え~、同棲してんの~! とか、チョー年上じゃない~? とか(想像)、ワイワイと話していたのだが
「ストリートミュージシャンで、お金を稼いでるんだよ」
と、Kちゃんが話した時から
「それって・・・なんか・・・あんたが養ってるんじゃ」
と、友人達の顔色が変わった。
そのひとりが
「パチンコが仕事って言ってる人と同じじゃん!」
と禁断の発言をしてしまったのだ。
今の僕なら「そうですねえ、楽な仕事です~」と笑えるのだけど、後半とはいえ20代の僕には辛い言葉だ。
Kちゃんにしてもそれは同じ事だった様で、部屋に帰ってその話をしながら、悔しそうに
「皆、ミユキさんの事を全然わかってない」
と呟いた。呟いてくれた。
なんとなく好きだからと、広島を出るために半ば彼女を利用してしまった僕は、嬉しかったと同時に、心から申し訳ないと思った。
僕の中にも確かにあったコンプレックスを、彼女の前ではもう見せないようにと決めた。
でも、若さは気まぐれ。
時は流れて1年。
「アタシの事が本当に好きだったら、ちゃんと働いてよ!!」
とは、同じくKちゃんの言葉(笑)。
大阪と言えば、梅田でも道頓堀でもなく、茨木市。
僕にとっては、今も変わらない。
そうそう。
茨木で会った、大事な男の話をまだしていない。
次回は珍しく『茨木編その2』にしてみよう。
では、また次回。
Google マイマップ 「西高東低~南高北低」
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