熊本 その2

さあさあ、熊本の2話目だ。
前回に書いたのがもうひと月も前なのだけど、どうせ手探りの記憶な訳だし、忘れられない事は多いので、大丈夫だとは思う。


手持ち数百円で熊本市内に辿り着いた僕を待っていたのは、いきなりの土砂降りだった。
何気なく入った地下道があまりにも居心地の悪い(長時間居座るとか寝転がるとか出来そうにない)雰囲気だったので地上に出たところ、ものすごい水しぶきが歩道に上がっていた。雲行きは怪しかったので覚悟はしていたものの、真夏を思わせる激しいスコールで、しばらく他の通行人と一緒に雨が止むのをアーケードで待った。

アーケードの入り口付近では、やけに元気なマイクパフォーマンスで煽るゲーセンのお兄さん(ナイナイの岡村君も来たとかで、ちょっと有名らしい)がいて、まったく飽きなかった覚えがある。
 
そんな感じで、十月の熊本はまだまだ残暑と呼べるほど暑く、にわか雨も多かった。
ただし晴天率は悪くなく、まだまだ夜をどう過ごせばいいか分からなかった熊本では、川沿いに寝転がってばかりだったので助かった。
僕の場合野宿といえば、寝袋や毛布の用意などまったくなく、地面にダンボールでも敷いて寝るだけだった。どこかのアウトドア雑誌で 『スニーカーは枕になる』 と聞いてたので、それを実践するくらいだ。よって、冬場に野宿はない。出来ない。

よく寝た川原は白川の護岸で、白川はアーケードを抜けてシャワー通りという怪しい名の通りを抜けた所、国道3号線沿いにある。
路上演奏が終わるとそこへ向かい、コンビニで買った缶ビールを飲んで寝た。朝になると時々、上のほうで工事をしてるおっちゃんが「おはようさ~ん」と声を掛けてくれたりしたっけ。
そのうち、路上前の夕方にも立ち寄る場所になり、白川の流れをボーッと眺めるだけが時間の潰し方になった。よく、詞を書いていた。

だから時々、中高生のカップルが先に陣取ってると

ちくしょう、俺の聖域を汚しやがって。お前らどっか行け。こっちはどこも行くとこないんだぞ。

なんて心で毒づいていた。
別に僕の場所ではないんだが、通勤電車の位置とか馴染みの店のカウンターとか、そんなのと一緒だろう。この気持ちは、路上演奏場所の場合は少し違う。路上は早いもん勝ちだから。

初日の話をしよう。
熊本は九州でも博多に次ぐ規模の飲み屋街じゃないかと思う。
そんな感じだから、小心者の僕は唄う場所をどこに設定しようかと悩んだ。
夜の9時前ともなればアーケードのそこら中に路上演奏の若者が現れ始めたが、そこは決して僕の場所じゃない。僕はもっとうらぶれた通り、街灯がかすかに灯る程度の道端で良かったのだ。

が、熊本。
そんな場所を探していたら陽が昇るほど飲み屋エリアが広い。
なのでなんとなく見つけた銀行の横、駐輪してる自転車やバイクの影で演奏する事にした。
景気づけ(安定剤)の酒も飲んだ。飲んだので持ち金はもうないに等しい。
それでも、なかなか唄い出せない。時間は、刻一刻と無駄に過ぎる。

何を唄ったか、もう思い出せないが、とにかく30分ほど経って唄い出した。
唄い出すと僕の迷いは吹っ切れたのだが、反応はイマイチの様だ。
もう1曲やると、今度は反応があった。
小銭が入った。
更にもう1曲やると、千円札が入った。
これはイケると思い、もう1曲やろうと思った矢先に、警備の人にダメ出しされた。
凹んだ。
凹んだ挙句、千と何百円の上がりだけで尻尾を巻いて白川護岸へ消えた。
ヘタレは今もだが、なんとまあ諦めの早い旅唄い初心者だったのだろう。
夜しか稼げない街で生き抜くためには、唄える時間に唄うというのが鉄則なのに。


わずか3曲で終わった熊本初日。
さあ、明日からはどこで唄おう。
そんな呑気な考えのまま缶ビールを飲んで眠りに就こうとしたが、少しずつ不安になる。
果たして、他の場所でも苦情は出ないのか。
もしかしたら、アーケードしか唄えないのかも。
あれだけ通りがあるけれど、一時期の大阪がそうだった様に、取締りが厳しい街はとことん厳しいものだ。

戻って、もう一回唄おうか。

時刻は0時を周ったところ。

まだ、間に合うんじゃないか。

もし駄目だったら、諦めてもっと小さな町へ移動しよう。そう覚悟して、僕はもう一度だけ街に戻った。
アーケードでは、まだまだ沢山のミュージシャンが唄っている。
ここは無理だ。
音が重なるのだけは、絶対に嫌だ。
音声多重の演奏から逃げる様に角を曲がったのが、それからしばらく世話になるとは思いも寄らない、黄昏クラブ通りだった。

~次回へ続く

2 件のコメント:

  1. トップの写真、ええっすね~!!
    毎度いい写真を持ってこられますが、今回もまたスーッと引っ張られそうな写真をどうもありがとうございます。

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  2. >さろ坊
    ありがとさん。
    小樽から新潟へ戻る船上での写真です。
    一人セルフタイマーって、見られたらかっこ悪いよねえ(笑)。


    そっちのブログも、よく見てるよ。
    相変わらずの妄想の広がりが、文章として色として、形になってきてるね。いいね。

    思えば、あれから1年以上。
    またいつか、元気な姿が見れたらと思う。
    また、酔っ払おう。

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